2019.01.31 08:00#まるでシャボン #岩館真理子私は女性作家さんの作品もよく読んでいたのだが、三人選べと言われれば、萩尾望都、くらもちふさこ、そして今回の岩館真理子になる。岩舘さんの特徴といえば、やはりその絵柄であろう。繊細で淡く、全く水分を感じさせない湿度のない世界である。あまり上手い例えではないのかもしれないが、往年のバンド「YES」の音作りを思い出してしまう。「YES」のそのあまりにも乾いた音楽性に耐えられなくなって、辞めていったメンバーが多数いたそうであるが、岩舘さんの絵柄にも、もしかしたら拒否反応を示す人がいるのかもしれない。その絵柄に反して物語自身には、実はとてもドロドロとした、人間の醜い部分を露悪的に炙り出そうしている意思が多く見受けられる。こんな物語を、例えば、美内すずえの絵柄でやら...
2019.01.30 14:02#地球最後の男(1964年)リチャード・マシスンの小説、「地球最後の男」(原題"I Am Legend")は過去三度に渡って映画化されている。今回お話したいビンセント・プライス主演の「地球最後の男」(1964年)、チャールトン・ヘストン主演の「地球最後の男オメガマン」(1971年)、ウィル・スミス主演の「アイ・アム・レジェンド」(2007年)の三作である。ヘストン版のオメガマンとは〝Ω″すなわちギリシャ文字の最後を意味し、文字通りの最後の男である。この作品は低予算感が漂う、原作の設定の表面をなぞっただけの、チャールトン・ヘストンが出演しましたという、ただそれだけの作品で、あまり語る価値のない凡作であるので省略する。スミス版は傑作になりそこねた惜しい作品である。初見の時の誰もが感じ...
2019.01.14 11:46#ファントム #ディーン・R・クーンツ早い・安い・うまい、でおなじみ、ディーン・R・クーンツ原作「ファントム」の映画化。ベストセラー作家としての評価は高いのに、自作品の映画化はことごとくZ級になってしまっていることに業を煮やした御大が制作総指揮まで務めた作品。その結果「お前もダメじゃん!」と世界中から突っ込まれてしまったのはご愛嬌。いや、私は楽しかったし、くれぐれも言っておくが原作は傑作。映画製作というのはことほど左様に一筋縄ではいかないものなのである。若き日のベン・アフレック主演、リーヴ・シュレイバー(オーメン666では主演!)が頭のイカれた部下を怪演、そしてピーター・オトゥールまで引っ張り出してきての力の入れ様!仕事選んでください、ピーター!ってもう遅いけどね。中国兵士大量失踪事件やロ...
2019.01.13 10:45#占星術殺人事件 #島田荘司1981年に発表された著者のデビュー作。当時評論家筋からはガン無視されていたのだが、今読み返してみるとある意味うなずける。デビュー作ゆえに文章が固いというか、その、あまり上手くないのだ。プロットに全神経がいってしまったのか、構成的にも無駄が多い。しかしその反動でか、事件の真相は前代未聞であり、驚くべきものである。「The Tokyo Zodiac Murders」という題名で特に欧州での評価が抜群で、世界のミステリベスト10の中に選ばれることもしばしばである。内容はとびぬけているのだが、文学的価値を認めてもらえず著者は落胆していたそうだが、大学のサークルを中心とした若者からは圧倒的な支持を得、喝采を持って迎えられた。当時のことをインタビューで「真っ暗で...
2019.01.12 04:04#悪魔が来りて笛を吹く #横溝正史 先日、NHK制作の吉岡秀隆主演「悪魔が来りて笛を吹く」を見た。吉岡金田一というのはなかなか予想していなかったチョイスで意表をつかれた形となったが、これが予想に反して意外とイケていた。ノロノロ、ぼそぼそと喋る風采の上がらない金田一を好演していた。衣装やセットも、腐ってもNHK、とても丁寧に戦後すぐの日本の雰囲気をよく再現してた。登場人物の配役も、尺の関係上省かれてしまう人物も省略されていないことを含め、なかなか原作のイメージに合った役者で固めていた。中でも驚いたのは倉科カナである。年老いた貴族の愛妾を演じていたのだが、その画面映えする美しさは原作のイメージをよくとらえていた。グラビアアイドルとしては知ってはいたのだが、普段ドラマを全くと言っていいほど見...
2019.01.10 08:05#ゴースト・イン・ザ・シェル巷ではあまり評判がよろしくなく、海外ファンからもいろいろと文句がでているようだが、私は楽しんで見た。そもそも日本のアニメーションをハリウッドが本気で実写化してくれただけでも良しとしなければならないと思う。監督の原作に対する愛も感じられたし、スカーレット・ヨハンソンも素子のイメージに合っていたと思う。あちらではなぜ日本人の役柄に白人を起用するのかとホワイトウォッシュが問題になっていたけれど、私にとってはどうでもいいことで、なるほど雑多な人種の集合体である国というのはかようなものなかとつくづく実感した。主人公(あえて素子とは言わない)が白人であることもストーリーの中で必然性があったし見終わった後でなるほどと思った。強いてあげるとするならば、スカヨハ、もうち...
2019.01.08 08:11#狂気の山脈にて #田辺剛H・P・ラブクラフトの数少ない長篇作であり代表作を漫画化。南極探検隊が偶然発見した太古の遺跡には、人類が関与していたであろう痕跡がまったく見られず、未知の文明が人類誕生の遥か以前に存在していたことが判明してくる。そして探検隊は更なる恐怖と対面することとなる。デルトロ監督が映画化を企画していたのだが「プロメテウス」が公開されてしまい、断念した。物語の骨子がよく似ておりそれもそのはず、あっちがこれをベースにしていたから。期待していたのに残念でならない。さて漫画化についてであるが、失礼ながら私は田辺氏について全く知らなかった。過去何人かが漫画化してはいたのだが、あまりピンとくるものがなくスルーしていたのであるが、一目、氏の絵を見た時から、一瞬で魅了され思わず...
2019.01.08 06:53#ヘルハウスリチャード・マシスンの「地獄の家」の映画化。20世紀初頭に悪事を重ね続け多くの犠牲者を出し行方不明となったベラスコという人物が所有していた屋敷の調査を依頼された物理学者とその妻、霊感を持つ少女、20年前に唯一生還したことのある霊媒師らが、屋敷の謎に挑む。時々極端なカメラワークを使い、屋敷そのものがこちらに襲い掛かって来るような錯覚を受ける。とても怖い。要所要所で挟まれる日時と時刻がいいハッタリになっていて、何だか判らないがとにかく凄そうだとかましてくる。じわじわと精神的に追い詰められてゆき、ポルターガイスト現象が起こり始め、当然のように次々と命を落としてゆく。最後に残った霊媒師・ロディ・マクドウォール(猿の惑星のコーネリアス博士!)がベラスコの霊と対決...
2019.01.08 05:45#ジョン・カーターアメリカの国民的作家エドガー・ライス・バローズの「火星のプリンセス」を初実写化。40歳以上のアメリカ人で読んだことがない人はいないであろう古典的SFの傑作。私たちにとっての孫悟空や南総里見八犬伝と同じ感覚ではないだろうか。20世紀初頭にスペースオペラなどという概念すらなく、出版社からはことごとく断られてしまった。なんとか出版にこぎ着けた際も、頭がおかしいと思われないようにペンネームをNormal Bean とした。あちらのスラングでごくごく一般的な人を意味するそうだ。その際、誤植でNorma Beanとなってしまい、しばらく女性作家と思われていたらしい。映画の冒頭部分で主人公が薄汚れた西部の雑貨屋で、袋をカウンターにドスンっと置いて「豆っ!」という場面...
2019.01.07 08:22#スターシップ・トゥルーパーズどうかしてる監督に、大金を湯水のように使うことを許し、好き勝手させたら一体どうなるのかという壮大な実験。欧州の破壊王ポール・バーホーベンの歪んだ精神性が大爆発した傑作。しかし当然のごとくレーティングに引っかかってしまい、興行的には大爆死。そんなことは端から解っていることなのに、これは頼んだほうが悪い。創作料理で有名な板さんに牛丼作ってくれと注文しておいて、出てきた料理に吉野家と違うと文句をつけているようなもの。そもそもこの監督は、第二次世界大戦時のオランダ・ハーグでの連合軍の大爆撃を経験しており、街じゅうに飛び散った死体を横目に見ながら生き延びた人である。味方であるはずの連合軍による大殺戮をその目で見て、理不尽で無慈悲なのがこの世界の現実であり、正義な...
2019.01.07 04:38#アサルト13 要塞警察オリジナルのカーペンター版と比べてあーでもない、こーでもないと文句を垂れるのは大人げないこと。これはこれとして楽しむのが大人のたしなみ。私は自分でもよく解らない感覚なのだが、好きな俳優とは少し違った、なんと説明したらいいのか、とにかく〝出演しているとつい見てしまう役者″が何人かいるのだ。イーサン・ホークもその一人だ。アクション映画に出演することが多いのだが、マッチョでもないし、強烈なリーダーシップ感を出すわけでもなく、今作でも署長代理を務めるのだが、頼りがいがあるんだかないんだかよく分からないところが実にイイ。物語は、大雪のクリスマスの夜、ビショップ(ローレンス・フィッシュバーン)を含む数人の犯罪者を乗せた護送車が雪のため止む無く閉鎖寸前のイーサン・ホ...
2019.01.06 15:12#ゾンゲリアひどい邦題である。おそらくゾンビと当時話題になっていた「サンゲリア」を合体させたのであろう。サイゼリアではないと思う。当たり前か。原題は「Dead & Buried」。死して埋葬されたる者、という感じか。脚本がご存知ダン・オバノンなので、のっけからラブクラフト臭がプンプンする。根っから好きなのねー、この人。寂れた漁師町を訪れたカメラマンらしき男が、寒々とした景色を撮影していると、突然美女(リサ・ブロント)がファインダーの中へ入って来てポーズを決め始める。そして服を脱ぎだし上半身裸になりニッコリとほほ笑むのだ。一瞬ひるんだ男であったが、すぐに好色な笑みを浮かべ写真を撮り続ける。突然背後から頭を殴られ気絶する男。気が付くと、浜辺の杭に逆さまに縛り付...