1981年に発表された著者のデビュー作。当時評論家筋からはガン無視されていたのだが、今読み返してみるとある意味うなずける。デビュー作ゆえに文章が固いというか、その、あまり上手くないのだ。プロットに全神経がいってしまったのか、構成的にも無駄が多い。しかしその反動でか、事件の真相は前代未聞であり、驚くべきものである。「The Tokyo Zodiac Murders」という題名で特に欧州での評価が抜群で、世界のミステリベスト10の中に選ばれることもしばしばである。内容はとびぬけているのだが、文学的価値を認めてもらえず著者は落胆していたそうだが、大学のサークルを中心とした若者からは圧倒的な支持を得、喝采を持って迎えられた。当時のことをインタビューで「真っ暗で何も見えず、何処へ向かったらいいか皆目見当もつかず不安で一杯だったが、学生諸君の照らしてくれる微かな光だけが私を導いてくれた。それを信じてこの暗闇を歩いて行こうと、勇気を振り絞った」というよな趣旨の言葉を残している。グッとくるなあー、ちょっと泣きそう…。それゆえか著者はその後、ミステリ作家を目指す若者を支援し続けていて何人もデビューしたのだが、その中に綾辻行人もいる。結局、いつの時代も評論家の言うことなどあてにはならんということなのであろう。物語は密室の中で殺害されたある画家の手記で始まるのだが、この文章が読みにくい。エキセントリックな人物であることを表現したかったと思われるが、ここで断念してしまう読者も多かったらしい。実に惜しいことである。内容は、占星学において、人間は生まれた日時によって身体のパーツの何処か一か所が祝福を受けている。そして乙女の身体からそれぞれのパーツをつなぎ合わせ、完全なるアソートを作り上げたいという、狂気に満ちた内容であった。先述のとおり、この画家は2・26事件の起こった大雪の夜に密室の中で殺害される。そしてその後、画家の六人の娘たちが手記のとおりの占星学における祝福された身体のパーツを切り落とされた状態で、全国様々な場所で発見される。関係がありそうな人物には全てアリバイがあり、調べれば調べるほど動機があるのは画家の父親しかいなくなってくる。しかしその父親はすでに死亡している!何十年も人々の頭を悩ませ続けた迷宮入り事件の謎に名探偵御手洗潔が挑む(実際は探偵ではないのだが)。終盤、二度に渡って読者に挑戦状を突き付けてくるのが楽しい。最後、犯人が実際に登場してくるのであるが、私も誰か解るはずもなく真相には全く気付かなかった。多分、それが正しい読み方で、作者のてのひらで踊らされ、五里霧中の状態になり、ラストであっ!と声を上げるのが礼儀であると思う。実際、こんなこと解るわけねー!になる驚愕の真相であるので、誰もが気持ちよく騙されればそれでいい。それを邪魔するようなことがあって、過去にある漫画家がこのプロットを剽窃し問題になったが、いつの間にか手打ちになったようで、「ああ、同じ講談社だからなあ、いかにも日本的だなあ」と思ったことをよく覚えている。海外だったら大変な訴訟騒ぎになるであろう。これから読む方のためにひとつだけヒントを言うと、事件が起こった時期をなぜ2・26事件のような古い時代に設定したのか?あー、これ以上はヤバイ!とにかくミステリ好きの方にはぜひ一度手に取って欲しい、いやっ、手に取れっ、読めっ、そして驚愕しろっ!
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