2020.09.14 09:44「切り裂き魔ゴーレム」謎解きミステリの楽しさとその映像化の狭間 今回も盛大なネタバレを含みます。充分ご注意ください。それと、過去の文章を読み返していて言葉使いが偉そうで上から目線だったので、ですます調に変更します、よろしくお願いします。
2019.09.09 10:20#オブリビオン 観終わって思ったこと(ネタバレあります) ジョセフ・コシンスキー監督による2013年のアメリカ製SF映画。デビュー作の「トロン・レガシー」も大人から子供まで楽しめるディズニー映画らしいSFエンタメであった。この人、SF好きなんだろうなあ、ビンビン伝わってくる。ただし、オリジナルの当時の映像技術の限界からくる偶然も大きく関わるであろう、あの”あまりにも異様で異質な”電脳空間の味わい深さは残念ながら再現できていない。よく見かける画面の絵面として流され埋もれてしまうようなモノだった。 異星人スカヴからの侵略を食い止めたものの、核兵器によって荒廃してしまった西暦2077年の地球で、スカヴの残党を始末するため、高度1,000mの上空から地上を監視する任務についた、ジャック・ハーパー...
2019.09.07 11:04#「月に囚われた男」と自身の創作(明らかなネタバレがあります。未見の方で結末を知りたくない場合、ご注意ください) 2009年のイギリス製SF映画。監督はデヴィッド・ボウイの息子でもあるダンカン・ジョーンズ。短期間の撮影、低予算であるにも関わらず、登場人物を絞り、特殊効果もミニチュアを上手く使い、そんな舞台裏の事情など微塵も感じさせない一級品のSFスリラーとして高く評価されている。 登場人物はほぼ一人なのだが、主演のサム・ロックウェルが自身のクローンを複数演じ分ける渾身の演技が素晴らしい。月面基地の外観や作業車のカットは、ほぼミニチュアを使用しており、CG全盛の現在からすると、懐かしくも感じる。同じ英国制作の「サンダーバード」に代表されるジェリー・アンダーソンの作品を髣髴とさせる、ク...
2019.06.22 05:18#フィールド・オブ・ドリームスと笑い男(今回はいくつかの作品についてネタバレになるかもしれない内容を含みます。予めご了承ください。) ケビン・コスナー主演、1989年公開のアメリカ映画『フィールド・オブ・ドリームス』について語りたいと思う。 もちろん大好きな映画なのであるが、アメリカ人にとっては特別に思い入れのある宝物のような、一年に最低一回は観返し子供たちにも伝えていきたい、国民的映画のような存在なのだそうだ。私達にとっての「忠臣蔵」のような娯楽作なのかもしれない。 ではなぜ、そのように、アメリカ国民にとって大きな存在となっていったのであろうか。アメリカの国民的スポーツの野球を題材とし、60年代をキーワードとして夢や希望、家族の絆といった、アメリカのよい面、美徳を描いていることがその理由...
2019.06.15 13:15#怪談というものについて 現在、怪談師と呼ばれる人達がたくさんがいるのであるが、それは芸人であったり、役者やタレントであったり、ネットを中心に有名になった者であったり、群雄割拠と言っていい状況である。しかし、私達が一番に頭に思い浮かべるのは、やはり、御大稲川淳二氏であろう。氏は元々工業デザイナーであり、その道では素晴らしい経歴の持ち主であるのだが、演劇の道に関わるようになり、いつしか怪談を披露することがクローズアップされ、現在の地位を築いていった。 近頃よく耳にする、”第二の稲川淳二”と言うフレーズに私は違和感を覚える。稲川氏がなぜ人々の心を掴み、支持されてきたのかをよく考えてみないと”怪談”というジャンルそのものがおかしな方向へ行ってしまうのではないかと、危惧しているのであ...
2019.04.11 12:09#遊星よりの物体X(1951)ジョン・W・キャンベルの小説「影が行く」の映画化。監督にはクリスティアン・ナイビイがクレジットされているが、製作のハワード・ホークスが大部分をコントロールしていたらしい。ジョン・カーペンターが子供の頃これを観て衝撃を受け、映画監督を目指したことはあまりにも有名。後に念願叶い、自身のリメイク作「遊星からの物体X」は映画史に残る金字塔となる。原作のエイリアンの設定を忠実に再現したカーペンター版に比べ、本作は当時の映像技術の限界から、ヒューマノイド型のエイリアンに変更されている。白黒で特殊効果と呼べるようなものもわずかであるのだが、氷の中に埋まった宇宙船の影に沿って隊員達が立ち並びカメラが引いていくと宇宙船の外観が露わになるショットや、ガイガーカウンターによ...
2019.01.31 08:00#まるでシャボン #岩館真理子私は女性作家さんの作品もよく読んでいたのだが、三人選べと言われれば、萩尾望都、くらもちふさこ、そして今回の岩館真理子になる。岩舘さんの特徴といえば、やはりその絵柄であろう。繊細で淡く、全く水分を感じさせない湿度のない世界である。あまり上手い例えではないのかもしれないが、往年のバンド「YES」の音作りを思い出してしまう。「YES」のそのあまりにも乾いた音楽性に耐えられなくなって、辞めていったメンバーが多数いたそうであるが、岩舘さんの絵柄にも、もしかしたら拒否反応を示す人がいるのかもしれない。その絵柄に反して物語自身には、実はとてもドロドロとした、人間の醜い部分を露悪的に炙り出そうしている意思が多く見受けられる。こんな物語を、例えば、美内すずえの絵柄でやら...
2019.01.30 14:02#地球最後の男(1964年)リチャード・マシスンの小説、「地球最後の男」(原題"I Am Legend")は過去三度に渡って映画化されている。今回お話したいビンセント・プライス主演の「地球最後の男」(1964年)、チャールトン・ヘストン主演の「地球最後の男オメガマン」(1971年)、ウィル・スミス主演の「アイ・アム・レジェンド」(2007年)の三作である。ヘストン版のオメガマンとは〝Ω″すなわちギリシャ文字の最後を意味し、文字通りの最後の男である。この作品は低予算感が漂う、原作の設定の表面をなぞっただけの、チャールトン・ヘストンが出演しましたという、ただそれだけの作品で、あまり語る価値のない凡作であるので省略する。スミス版は傑作になりそこねた惜しい作品である。初見の時の誰もが感じ...
2019.01.14 11:46#ファントム #ディーン・R・クーンツ早い・安い・うまい、でおなじみ、ディーン・R・クーンツ原作「ファントム」の映画化。ベストセラー作家としての評価は高いのに、自作品の映画化はことごとくZ級になってしまっていることに業を煮やした御大が制作総指揮まで務めた作品。その結果「お前もダメじゃん!」と世界中から突っ込まれてしまったのはご愛嬌。いや、私は楽しかったし、くれぐれも言っておくが原作は傑作。映画製作というのはことほど左様に一筋縄ではいかないものなのである。若き日のベン・アフレック主演、リーヴ・シュレイバー(オーメン666では主演!)が頭のイカれた部下を怪演、そしてピーター・オトゥールまで引っ張り出してきての力の入れ様!仕事選んでください、ピーター!ってもう遅いけどね。中国兵士大量失踪事件やロ...
2019.01.13 10:45#占星術殺人事件 #島田荘司1981年に発表された著者のデビュー作。当時評論家筋からはガン無視されていたのだが、今読み返してみるとある意味うなずける。デビュー作ゆえに文章が固いというか、その、あまり上手くないのだ。プロットに全神経がいってしまったのか、構成的にも無駄が多い。しかしその反動でか、事件の真相は前代未聞であり、驚くべきものである。「The Tokyo Zodiac Murders」という題名で特に欧州での評価が抜群で、世界のミステリベスト10の中に選ばれることもしばしばである。内容はとびぬけているのだが、文学的価値を認めてもらえず著者は落胆していたそうだが、大学のサークルを中心とした若者からは圧倒的な支持を得、喝采を持って迎えられた。当時のことをインタビューで「真っ暗で...
2019.01.12 04:04#悪魔が来りて笛を吹く #横溝正史 先日、NHK制作の吉岡秀隆主演「悪魔が来りて笛を吹く」を見た。吉岡金田一というのはなかなか予想していなかったチョイスで意表をつかれた形となったが、これが予想に反して意外とイケていた。ノロノロ、ぼそぼそと喋る風采の上がらない金田一を好演していた。衣装やセットも、腐ってもNHK、とても丁寧に戦後すぐの日本の雰囲気をよく再現してた。登場人物の配役も、尺の関係上省かれてしまう人物も省略されていないことを含め、なかなか原作のイメージに合った役者で固めていた。中でも驚いたのは倉科カナである。年老いた貴族の愛妾を演じていたのだが、その画面映えする美しさは原作のイメージをよくとらえていた。グラビアアイドルとしては知ってはいたのだが、普段ドラマを全くと言っていいほど見...
2019.01.10 08:05#ゴースト・イン・ザ・シェル巷ではあまり評判がよろしくなく、海外ファンからもいろいろと文句がでているようだが、私は楽しんで見た。そもそも日本のアニメーションをハリウッドが本気で実写化してくれただけでも良しとしなければならないと思う。監督の原作に対する愛も感じられたし、スカーレット・ヨハンソンも素子のイメージに合っていたと思う。あちらではなぜ日本人の役柄に白人を起用するのかとホワイトウォッシュが問題になっていたけれど、私にとってはどうでもいいことで、なるほど雑多な人種の集合体である国というのはかようなものなかとつくづく実感した。主人公(あえて素子とは言わない)が白人であることもストーリーの中で必然性があったし見終わった後でなるほどと思った。強いてあげるとするならば、スカヨハ、もうち...