#「月に囚われた男」と自身の創作

(明らかなネタバレがあります。未見の方で結末を知りたくない場合、ご注意ください) 

 2009年のイギリス製SF映画。監督はデヴィッド・ボウイの息子でもあるダンカン・ジョーンズ。短期間の撮影、低予算であるにも関わらず、登場人物を絞り、特殊効果もミニチュアを上手く使い、そんな舞台裏の事情など微塵も感じさせない一級品のSFスリラーとして高く評価されている。

 登場人物はほぼ一人なのだが、主演のサム・ロックウェルが自身のクローンを複数演じ分ける渾身の演技が素晴らしい。月面基地の外観や作業車のカットは、ほぼミニチュアを使用しており、CG全盛の現在からすると、懐かしくも感じる。同じ英国制作の「サンダーバード」に代表されるジェリー・アンダーソンの作品を髣髴とさせる、クラシックなSFマインド溢れる画面が胸躍るようだ。

 物語は、3年契約で月面において一人きりで鉱物資源を採掘する男のはなし。早い話が、採掘しているのは実在の人物のクローンであり、寿命が3年であるため、任期を3年とし、任期満了で地球に帰還するための処置と称し眠らせておいてその者を処分し、新たなクローンを目覚めさせ、偽の記憶とともに3年間の任務を全うさせていたのである。酷い話である。

 任期満了を間近に控えた主人公は作業中のアクシデントで大事故に遭ってしまう。完全な死亡を確認せずに基地を管理するAIは次のクローンを起こしてしまう(確認しろよ!)。一命を取り止めてはいたが重傷のクローンと目覚めたばかりのクローンが存在してしまい、ここから不条理なサスペンスが展開する。

 しかし、実際の人間を雇うより、クローンを大量に作ったほうが効率的でコストが掛からないという企業倫理も解らなくもないが、クローン人間に対する生命倫理に関して、未来に起こりうるかもしれない事だけに、背筋が寒くなる話である。

 ラストにおいて、企業利益に反してまでも、主人公を助けるAIの漢気にグッとくる。

「私の使命はあなたを助けることですから」

「2010年宇宙の旅」において、前作で、心ならずも人間に敵対してしまったHAL9000が、2010年では人間のために自らを犠牲にし、多くの命を救った場面と重ね合わせ、ボンクラSF中年にとっては男泣き必至の名場面!

  ツッこもうとすれば、いくらでもツッこめるのであるが、そんな些細なことなど吹き飛ぶような映画史に残る大傑作なのは疑いようもない作品である。

 ではそんな今更判り切ったことを言いたかったのかというと、そうではなく、私自身の性癖というか、趣向について語りたかったのである。

 私は小説や映画で感動すればするほど、自分が創作者であったら登場人物をこう動かしてみたい、結末をここへ持っていきたい、などと夢想することがこの上もなく楽しく感じる、傍から見たら、一種の変態なのである。

 スター・ウォーズの新シリーズの幕開け、フォースの覚醒を見終わった後、真っ先に思ったのは、この後好きに脚本書いていいよと言われたならば、自分はどうするかといこと。

 自分だったら、女性主人公のレイが闇に捕らわれ、暗黒面に真っ逆さまに落ちていき、シリーズ屈指の悪役になっていくと同時に、正義に目覚めたカイロ・レンの贖罪の物語にするだろうな、などと思いを巡らせていたりもしていた。

「月に囚われた男」を見終わった後も、結末を変えてみたい衝動に駆られて仕方がなかった。私の結末はこうだ。

 3年の任期を終え、記憶を失い、また新たな記憶で任務を繰り返すのには理由があって、実は地球は核戦争で荒廃し、人類はすでに死に絶えていたのである。主人公は残された最後の人間だったのである。AIはそのことを主人公に告げるのに忍びなく、残された最後の人類である主人公に心穏やかに寿命を全うして欲しくてウソをつくことを決心する。

 日に日に年老いていく自身の身体に疑問を持ち始めた主人公は、真相にたどり着くのであるが、AIの自分に対する思いやりの深さに感動し、ウソをついていたことを許すのである。

 天に召されるであろうその時、ベッドで横たわる主人公の周りを、召使い型のロボットが跪いて見守り、「宇宙戦艦ヤマト」のような荒廃した赤い地球を見つめる主人公を哀れに思ったAIが、窓のガラスをスクリーンにチェンジし、青々としたかつての美しい地球の姿をCGにして蘇らせる。涙を流しながら、最後の力を振り絞り、その手を地球に伸ばそうとして主人公は息絶える。ロボット達は目を伏せ、人類の終焉を看取る。

 こんな物語を考えてみたのだが、いかがなものだろうか。お前は名作に対して冒涜し愚弄する気なのか、もっての外だ、などとお怒りの方もいるかもしれないが、そんな気はさらさらなくて、感動してしまうと、反射的にこうなってしまうのである。ただただ物づくりの真似事をしている中年の妄想として受けとっていただければ幸いである。

 


ザルで水汲むマニア心

映画やゲームについて好きなことを呟いていきたいと思います。一部ネタバレを含む場合があります。

0コメント

  • 1000 / 1000